先日、「未来の海のレストラン」にお誘いいただき参加してきた。
Tポイント・ジャパンとChefs for the Blueの共催イベントだ。
Chefs for the Blueは、ジャーナリストの佐々木ひろこさんが主宰している素敵なシェフたちのグループで、海の未来のために活動されている。
この日は、森枝幹さんと中村拓登さんという2人の才気あふれるシェフがユニークなメニューをご用意くださった。
前菜はこちら。北陸伝統の魚料理「へしこ」が大根やシソとよく合う。
しかし、ここからがユニーク。アサリのお出汁は、とっても薄い。なぜなら、天然のアサリが近年とても減っているから。
そして、驚いたのは、うな重だ。ふたを開けたら……
なんと、タレご飯!
おいしいけど寂しい。いま日本で私たちが買えるウナギは、ほぼほぼ出どころ不明。今のような野放図な消費を続けていれば、いずれ大人気の野生生物であるニホンウナギは枯渇してしまう。
これは「絶望の章」と題して提供されたメニューで、敢えて暗い未来のレストランを演出している。
テーブルに敷かれたオシャレなシートにも意味があって、これは、日本で流通するウナギの7割がIUU漁業(違法・無規制・無報告漁業)由来のヤバいウナギであることを表現している。
最後にこちらの写真もアップしておきたい。これは何でしょう?
実は、美味で有名なノドグロである。下の魚拓が一昔前まで普通に流通していたサイズ。そして今、スーパーなどでたたき売りされているのが上のミニミニサイズ。卵も産めないまま、高級魚が命を落としている。これを乱獲と呼ばずして、なんと呼ぶのだろうか。
というわけで、おいしかったけれど悲しい気持ちになる未来のレストランだった。しっかり最後には、未利用魚を活用する新商品など希望も示して後味の良いディナーにしてくださったのだが、敢えて、この夜に私の目と鼻と舌に深い印象を刻んだメニューを挙げた。
なお、この数日後、私は数年ぶりに本物のニホンウナギを食べた。埼玉はおいしいウナギ屋さんが多い。実家の近所に昔から両親が贔屓にしている店があり、父母姉と久々にうな丼をいただいたのだ。
普段ならウナギはやめとく!と言う私だけれど、父の喜寿と母の1年遅れの古希と敬老の日をトリプルで祝う席だったので、ええい!今日は特例!と割り切った。
やっぱりおいしかった。でもシラスウナギが獲れない時代なので相場がぐんと上がっている。本当に余程の時以外は口にできない魚になってしまった。
久しぶりのウナギの味わいを舌に残したまま、海部先生の『結局、ウナギは食べて良いのか問題』という、そのものズバリの本を熟読した。
そして結論として、やっぱり、しばらく私は食べ控えようと思った。イオンの一部のウナギパックなど限られた商品しかトレーサビリティーがとれていないから(出どころをたどれない)。
一部の店の「食べて応援」という打ち出し方に、これまで何度もモヤモヤしてきた私は、数年前の市民向けシンポジウム「うな丼の未来」で、そのことを質問用紙に書いた。それを、ちゃんと舞台上で取り上げてくださったのが、司会を務めておられた海部先生だった。
そして数年後、このご著書を読んだら、極めて明確に、先生の回答が書いてあった。石倉かごには今のところウナギを増やす科学的な証拠はない。それを設置してウナギを売り続ける小売の行為は、言ってしまえばグリーンウォッシュ。そういったご意見が、率直な口調で書かれている。スッキリ。
最後のほうを読むと、先生がちょいと大人の嫌がらせに遭ったことが伺える記述がある。さりげなく書かれているけれど、胸に刺さる。社会には一見「良さげ」だけど、実は「正しくない」かもしれない行いが多々ある。それをハッキリ指摘しただけで叩かれるとしたら、窮屈な世の中だ。
とにかく一人のウナギ好きとして、本当にウナギ資源の保全に役立つことを知りたいし、それを突き詰めて考えてくれている専門家たちのお話をこそ、微力ながら広めていきたいと思う。
そうそう、未利用魚を積極的に活用している森枝シェフが、「価値観を散らす」と表現したのも秀逸だったなぁ。マグロ、ウナギ、サケ――、私たちは同じ魚ばかり、しつこく食べ過ぎ。これだけ多様な生き物がすむ海に恵まれているのだから、もっと消費する魚介類を各種に散らしておくべきだったのだ。今からでも遅くないのかも。食べ終えて、結局は「希望」をいただけたイベントだった。