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離島の映画

今年秋の東京国際映画祭で印象に残った作品があった。

 

映画「海だけが知っている」

 

台湾の女性監督の作品で、本場タイトルは只有大海知道。

英語でLong Time No Sea

ポスターは海に潜る少年。しかも、気になる離島ネタ。

 

これは見なくては!

と張り切ってTOHOシネマズ 六本木ヒルズへ。

 

ドキュメンタリー好きの私は、先生役(彼だけ役者で他は全て島の人々が演じたというから驚き!)の遠距離恋愛と失恋からの島の女性に……のあたりには興味が湧かず、ひたすら島の暮らしぶりや海との距離の近さに心惹かれた。

 

主人公の少年は、ごく日常的にスポンと海に入り、喜びも悲しみも水に溶かして生きている。

 

幼い孫にプレッシャーをかける祖母、なぜ?ってぐらいに面倒をみない父親、そして軍隊のように威圧的な教え方をする先生。そういう大人の残念な姿に対して、親を健気に慕う子どもの可愛いこと。

その残酷なまでの純真さが泣ける。

 

島の暮らしは道が1本、刺激はたまに来る船や飛行機など外来のもの、毎日食事は魚か芋。 遊ぶのは海の中や波打ち際。美しい景色と果物と魚と。

 

羨ましいような自然に恵まれているけれど、生活は貧しいし、刺激も異性の選択肢もない。主人公の父親のように出て行く人の気持ちも分からなくはない。

 

ましてや、大都会が近くにあって、仕事も楽しみもそこにあると知れば、その流れを止めるのは難しいだろう。

 

人材の流出や伝統の喪失。日本の離島や過疎地が直面している課題とも通じる映画だった。

 

かつての台湾にはたくさんの少数民族がいて、それぞれの部族が磨いてきた文化が急速に消えつつあるということを、ツイ・ヨンフイ監督のトークで知った。切ない。

 

そして、この映画の日本での一般上映予定が無いという現状も、切ない。

 

 

追伸

主人公を演じた島の少年ジョン・ジアジュン君は、見事、アジアの映画賞「第55回金馬奨」の新人賞を受賞したそう。自然体で終始イキイキしていたもんなー。納得です。

離島の魅力や、脈々と受け継がれてきた文化の尊さ、多様性が消えていく寂しさと積極的に残す大切さを静かに伝える良い作品でした。細々とでも、世界各地で上映され続けると良いなーと思います。